読んだら書くだけの存在

漫画や本を読んだ後の個人的感想の記録

34. 『ゆうれい犬と街散歩』 東京を歩いて探すのはそこにあるもの

 先日前々から行きたいと思っていたお店に念願かなって行くことができた。

 

 中野ブロードウェイ内に入る「タコシェ」という主にミニコミや同人誌等一般流通していない書籍を扱う書店がある。小さなお店だが魅力的な書籍や雑貨・グッズが溢れている人気店だ。

 

 たまたま東京へ行く用事があり他にも行きたい場所が複数あった中で時間を割いて訪れたわけだが、予想以上に気になる本ばかりで想定の倍以上買ってしまった。

 

 その中の一冊について書こうと思う。

 

 

ゆうれい犬と街散歩 (路草コミックス)

 

 中村一先生の『ゆうれい犬と街散歩』は今年9月に発売されたばかりだ。

 

 内容はシンプルだ。主人公だけに幽霊の犬と共に東京各地の街を気ままに歩く話が描かれている。

 

 私は作者のことも作品のことも全く知らず、今回訪れる数日前の下調べで初めて知った。不勉強で申し訳ない。

 

 登場する街は実際の東京の街そのもの。おそらく作者自身が歩き回って気になる光景を写真に撮り、線で起こして漫画を描いていると思われる。

 この方法で描かれた画が私は好きだ。個性の出る筆跡、細部まで描き込まれることによりコマの中の風景が一枚の世界となっている。ミニチュアの模型を見ているような、そんな感覚を持つ。

 

 

 主人公の男性とゆうれい犬は目に付いた気になるものについて語ったり、思ったことを口にして軽く議論したり、でも結局答えは出なくて、また歩き出して……

 

 主人公は明らかに作者の投影そのものだが、自身の境遇や環境と周囲の人間を比べて自己嫌悪になったりもする

 

とても共感してしまった

 

 自分のダメさ加減は自分こそが最も理解している。痛みを伴うほどにそれは大きく膨れ上がって抑えきれなくなることだってある。

 けれど主人公には「ゆうれい犬」が傍にいる。彼は主人公の苦悩や心情をふわふわした体でしっかり受け止めて、優しくまっすぐな言葉で返してくれる。

 

 ふと目にする街を一人で歩く人でさえ、一人きりで生きてなんかいけない。必ず誰かが支えてくれている。私たちの心を助けてくれる存在が街には溢れている。古びた家の壁や軒先、アスファルトの地面にも人疎らな駅にも工業地帯の海にも寂れた公園にも、どこにだってちょっと好きなものが見つかれば嫌なことも少し我慢して明日も生きていける

 

 

 そんなことを思った。