76. 『レキヨミ』1~3巻完結 森住まいのケモミミ姉妹のハートフルバイオレンス
フィクションにおける獣人・ケモ耳キャラの発祥はいつだろう?
真面目な話をすれば、西洋の古代神話には半身半獣の神々や妖精などがごく普通に登場する。人間の想像力の源は身の回りの自然なので、動植物を参考に人と合体させるのは必然ともいえる。
日本なら『鳥獣戯画』――と思ったがあれは擬人化であって人じゃない。獣100%なので獣人とは異なる。
私の知ってる限りだと猫や妖怪が擬人化されているが獣人はあまり出てこない。
海外の方がケモナー(獣人フェチの人)が多いイメージがある。
しかし日本のサブカルの中でも獣人・ケモ耳キャラは一ジャンルとして定着して久しい。
柴田康平先生の『レキヨミ』は独特な雰囲気を纏う獣人の世界を描いている。
自然豊かな森の屋敷に住む薬屋姉妹がいる。おっとりで意地悪好き、けど妹大好きな材料調達担当のレキと読書好きで薬作り担当、キレると暴力的な妹のヨミ。
森に子ども2人だけでは暮らしていけない。彼女らがお菓子や本を買うときに立ち寄る売店長・シャグやヨミ大ファンのノンフィクション小説家・カポネなど、一癖あるお姉さんたちと関わって暮らしている。
平和なようですぐに(レキが)死ぬハプニングだらけな日常漫画。
以前書いた柴田先生の『夜な夜な夜な』の前に描かれた長編が本作になる。
3巻という決して多くないボリュームだが一話一話の完成度は非常に高いと思う。
作者の最大の推しポイント・濃密なアナログ作画はこの頃から素晴らしく発揮されている。コミカルで可愛さ抜群なキャラの表情のバリエーションは豊か、森林や街中の背景は物量の過剰供給になりながら細部が潰れないような質感の描き分けをしている。
本作の魅力も、もちろん画風だけじゃない。ストーリーのオリジナリティも文句なしの出来だ。いくつか特徴的な要素がある。
レキのちょっかいやイカレた悪戯にヨミがキレて腹パン一閃。するとレキはごく当たり前に死ぬ。口から同じ顔をした魂が抜け出て肉体の血の気が失せる。だがヨミも他の皆も特に気にしないのがこの世界の普通だ。レキはしょっちゅう死ぬ。そしていつの間にか生き返る。
唾液・よだれ・吐しゃ物が割と頻繁に出てくる。たとえばレキが舐めた飴を取り出しヨミに食わせる、薬作りに唾液を使う、無理やり吐くなどのシーンは2話に一回は出てくる印象だ。特段写実的な描画ではないが、そういうのが苦手な人には向かないだろう。
もう一つも外せない魅力、キャラクターだ。
先にも言ったが、レキ・ヨミがまぁ可愛い。シャグは余裕ある大人な雰囲気で姉妹と違った良さがあるし、カポネはかっこよく見せたがりなのに実はポンコツでカワイイ。
どのカットも隙のない画力で描きこまれた画面とファンシーなキャラにギャップあるバイオレンスなストリートが絶妙に絡み合う良作だ。
あっというまに3巻を読み終わると、存在しない4巻目を求めてしまう。もう一度彼女らの物語に触れたいと思ってしまうのだ。
叶わぬ夢と知りながら、それでも淡い期待を持ちつつ次のマンガに手を伸ばす。