90. 『モモ艦長の秘密基地』1巻 自堕落で抜け目ないけど詰めが甘いベテラン艦長
拾ってきた段ボールとゴミの中からかき集めたガラクタで出来上がった秘密基地を小学生の頃に作った記憶がある。
公園の垣根の入り組んだ奥がぽっかりと空間になっていて、そこにそれらを詰め込んだ子供だけの内緒の部屋はテレビゲームができるわけじゃないしお菓子があるわけでもないのに、
「自分たちしか知らない、私たちしかここにいない」
という秘匿性が子ども心をくすぐられる点だった。
その心は大人になった今でも自室という形で残っている。
場所も中身も違うけれど、好きなものに囲まれた自分だけの空間なのは同じだ。
鶴田謙二先生の『モモ艦長の秘密基地』は一人と一匹しかいない無法地帯の日々を描いている。
今より未来の世界は技術の進歩によって宇宙間の移動が活発になり、超長距離輸送が重要な仕事になっている。完全電化された船は燃料部分を必要としないため荷物を多く運べるようになった。
時に1年以上かかる輸送日数だとたった一人の船員の為の食糧問題が発生していた。積み荷を減らさず食料を確保する方法、そこで登場したのが料理複製器・電子レプリケートレンジ。電気さえあればどんな料理も再現・生成できる優れもの。なんなら食べ物以外も作り出せてしまう……
SFベースだが特徴的なアイテムはレンジのみ。登場人物も主人公と飼い猫、そして上司のみ。壮大な宇宙でスモールスケールな設定だ。
主人公のモモ艦長は持ち込んだ物と生成した物が山積みになった船の中で猫と暮らす。誰にも見られることもないせいか船の中の彼女は24時間裸。一糸纏わぬ生まれたままの姿で過ごしているため、ややきわどい描写もある(アンダーヘアが描かれている)。
細い線描の人物はしなやかなプロポーションでごちゃついた部屋とギャップを感じる。
魅力は主人公の自堕落で自由奔放具合だ。
自分もこんな生活ができたら……と思ってしまうが人と会わずに1年以上暮らすのは案外きついかもしれない。一人でも平気なタイプだと思うが、先のコロナ禍を思い返すと急に寂しさがこみ上げてきそうだ。
それに主人公はレンジで食料以外の生成に多大な電力を使っているため、航行の度に電力不足と闘っている。もしも電力がなくなれば死あるのみ。それはごめんだ。
驚きだったのが本作の連載が始まったのは2017年ということ。
単行本発売は22年3月。5年かかってようやく一冊。
作者あとがきをみると、なかなかの遅筆らしい。続きが気になるが単純計算で2巻は2027年になる。
白泉社の楽園コミックはいくつも買っているが、いずれも年1以下の発売がほとんど。本誌が隔月らしいので仕方ないが、いくつも単行本も待つ身としてはせめて年1冊は読みたい。
……そろそろ本誌購読を検討してもいいかもしれない。