93. 『駕籠真太郎作品集 都市とインフラストラクチャー』 空想力で練り上げられた町の集合体
我々の生活を豊かで便利にしてくれるアイデア商品。
ワンコインショップやホームセンター等に多いイメージだが、どれもありそうでなかったたった一工夫で既製品から劇的な変化を遂げている。日々案を出して試行錯誤する人には頭が上がらない。
創作分野も同じく。
とりわけ短編は一ネタの発明やアイデアを一話につき一ネタ以上消費していく。
作話はとても体力を使うのだ。
駕籠真太郎先生の『都市とインフラストラクチャー』は創意溢れる短編集だ。
10を超える短編の数々はいずれも駕籠ワールド全開で心の裏側を刺激する。
私的お気に入りをいくつか紹介する。
「ミニスカート」
視線誘導を活かした話。
ミスディレクションというマジシャンテクニックが知られるが『黒子のバスケ』で使われてより有名になった印象だ。
本話はタイトル通り、巷でミニスカファッションが流行しているのに逆に上半身の露出はなぜか誰もしていない。不思議に思うがファッションとはそもそもメディアが作り出すものだという。つまり大衆の目線が下へ向くよう誘導している……?
「マスク」
正にコロナ禍に生まれた作品らしい題。
マスクをつけ始めた女子が素顔を晒すのが怖くなり、同じマスクを家でもシャワーでも睡眠中でもつけ続ける話。
マスクを外せないのは現実に問題化していることでもある。人に見せなくなって3年経つと今度は見せるのが恥ずかしくなる。下着と同じわけだ。
「消しゴム」
そんな所まで話が繋がるの!?と思わされる作者らしい話の一つ。
作文中の文字を一文字だけ消したい。そのためには同じ文字をひたすら消した消しゴムのカスを集めて練り消しにする。そしてそれを使えば特定の文字だけを消せる専用消しゴムが完成する。
あったら便利だなと思う指向性のもの。
「都市とインフラストラクチャー」
表題作。他の話と比べると少し長い。
夜、自室にいた女子は窓から道に這いつくばる人影を見かける。それがゆっくりと玄関に近づいてくるので女子は慌てて一階に降りる。何故か他の家族の気配はなく、気づけば影は屋内に侵入していた。それは制服を着た少女の姿で顔面を覆いつくすように無数の蛇口が生えていた……
本作品集の中で最もホラーテイスト。
作者の十八番といえば、の制服少女。そして血、内臓、骨や異物などのグロテスク。
表紙そのままの女子が登場するが、蛇口をどう活かすんだろうと思っていた。
主人公を襲う理不尽な恐怖はホラーならでは。もしもいつも歩いている横断歩道に地雷が埋め込まれていたら……そんな感覚に陥る。
なのに恐怖よりも面白みが勝る。
絵のタッチが為す業か、顔から生える蛇口の異様さのせいか。
他にも「流れ弾」や「ボタン」「トイレットペーパー」など、ブラックユーモアとセクシャルの合わせ技が読者の視覚に雪崩れ込む。
体験した駕籠作品はまだ2作なので、残りも適宜読んでいきたい。