読んだら書くだけの存在

漫画や本を読んだ後の個人的感想の記録

82. 『大科学少女』上下巻 あらゆる理系を楽しみ学べる部活漫画

 一番学生に人気のある教科は何だろうか?

 

 現役生には主要五教科のいずれかよりは副教科の方が好かれそうだ。

 けれど体育は運動嫌いの子がいる。美術は絵が苦手な人もいる。音楽は音痴な人には苦痛かもしれない。家庭科も技術も、得意不得意を考慮すれば好きでない人もいる。

 

 これが一番、は決められないかもしれないけれど苦手でも嫌いでも、案外些細ななきっかけで好きになるかもしれない。

 

 

 

大科学少女 コミック 全2巻セット

 

 渋谷圭一郎先生の『大科学少女』は「もう一度理科を好きになる」マンガだ。

 

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 高校入学を機に何かをしたいが得意なことが何もない主人公は危ない実験好きな友人に強引に連れられ”科学部”へ向かう。が、そこには”科学部”の名前が。中にいた部員に尋ねてみると、部員不足の理系部活が統合して昨年大科学部となって再出発したという。生物学・化学・地学・物理学の4人と活動しながら主人公は理系の奥深さに嵌まっていく。

 

 理系各分野を一つに詰め込んだ作品、『瑠璃の宝石』の作者のデビュー作が復刻されたものだ。なかなかの意欲作だったと思われるが、巻数だけ見れば売り上げは振るわなかったのだろう。学問系漫画はその出来具合やマニア具合がその筋の専門家に取り上げられ話題になったりするが、一般読者に迎合されるかどうかは別問題とある漫画も界隈で大きく話題になったが連載は短く終わってしまった。

 

 

 本編内容は科学を活かした身近な事象の実験が主。黒板消し落としの必中法、紙飛行機をいかに遠く飛ばすか、硝酸の自作法、在来・外来タンポポの見分け方など個人で試せるものばかり。作中に取り扱った単語等についてのミニコラムも充実している雑学としても理科知識としてもためになる

 

 

 2巻しかないので容量が少なく取り上げたネタも限られてしまうのだが、それでも理科の入門漫画として、大人向けの理科復習の入口としても抜群読み心地。

 

 得意がなかった主人公は「理系発表会」に向けて彼女ら部員たちの”好き”に触れていくことで狭かった世界を拡張していく。それぞれの学問の一端から部員の個性も明らかになって仲が深まる。最終話を迎えても大科学部の活動は勢いを増すばかりだ。

 

 理系といえば元素記号や地質用語などの暗記量に加え数学要素も多いため苦手意識を持つ人も少なくないだろう。しかしライトな作風でありながら抑えるべき点を網羅した本作を読めば多くの人が理系科目の面白さを実感できるはずだ。

 

 

 本作で培われた漫画作りの経験が今の『瑠璃の宝石』に繋がっているのは、まさに先人たちが積み重ねてきた人類史の学問の歴史にも似ていないだろうか?

 さすがに言い過ぎか……いやそんなことはないと思う。

 

 知識と経験の習得はこの世に1人では成し得ない奇跡だ。

 

 

 まだまだ可能性を秘めた作者の今後を一ファンとして楽しみにしている。