読んだら書くだけの存在

漫画や本を読んだ後の個人的感想の記録

89. 『無限大の日々』 昆虫・蟻・幸運発生機……見て分かる重厚なSF短編集

 最近触れたSFは何かと聞かれたら、漫画以外なら映画『TENET』くらい

 

 ――いや何年前だと言われそうだが、本格SFとなると2年前の映画しか浮かばないほど日頃SFというものを鑑賞することは少ないのだ。

 

 

 そんな私でも楽しめるSFマンガを紹介する。

 

 

 

無限大の日々

 

 八木ナガハル先生の『無限大の日々』

 

 以前同作者の2作目短編集を取り上げたが、本作は1作目になる。

 

natu-comic.hatenablog.com

 

 収録作品はいずれも作者がコミケコミティアといった同人イベントで発表した作品群。

 のちに繋がる「涼子さんシリーズ」もこのころから既に登場する。

 

 7話収録されているが、特に私が気になった話をここでは取り上げよう。

 

 

 一話目の『STC特異昆虫群』

 主人公は大学に入学したての女性。彼女は友人から「就職に不利になる」と言われながらも、幼いころから興味のあった機械人間の教授が扱う”SFC特異昆虫群”の講義を取った。

 その昆虫は遥か離れた惑星にも全くの同種が生息していることが注目され、研究が加速したのだが、当初考えられていた有用性がなくなると大学上層部から資金が出なくなった。

 しかしこの昆虫は情報を同一個体間で距離を無視して伝達する性質を持っていたと判明。研究は再び進展していくが……

 

 昆虫とSFの融合。解説コラムの口ぶりからも作者が昆虫好きなのが分かる。

 かくいう私も昆虫大好きなので本をめくってこのタイトルを見た時は

「おおお!!!」

と思ってしまった。

 しかも本編内容でも重要なキーワードの一つに「平行進化」とその代表としてオサムシが出てきたのも何故だが嬉しかった。

 平行進化とは異なる地域で異なる進化の道筋を辿ってきたのに同様の生物になるというもの。厳密にいえばもう少し違うニュアンスらしいが本編で使われているのもこのような感じだ。

 

 ネタバレにならないようこれ以上詳しく言わないが、昆虫と進化とSFの3本柱がとても興味深かった。

 

 

 もう一つは『蟻の惑星』

 2人の少女が母星での課題で、ある惑星が植民地化できるか調べにやってきた。この星は独自進化した複数種のアリの支配を受けていたため、2人はアリの調査を主に行っていく。

 

 このアリがなかなか曲者。2人がテントで寝ているとタイマツアリの群れが周囲に薪を積み上げ燃やそうとするし、ノウコウアリの農場があって、ミサイルアリが打ったミサイルをレーザーアリのレーザーが目標指定する。

 彼らは一種一ジャンル単位で文明レベルの進化をしている。それは星の環境を変えるほどになっている。

 

 広く昆虫に続いて、こちらはアリ。

 どちらも虫に変わりないが、本作収録マンガの中でも一般的な内容でわかりやすく面白かった。地球のIF世界っぽい話。生物進化学的にもあり得ない話なのでそのままSFでしかないのだが、リアリティとフィクションのバランス良さを感じる。

 アリというのもポイントだ。一匹のメスがトップの巨大な群れの中で階層分けされた社会性(真社会性)昆虫。昆虫界、いや動物界においても相当高度な進化を遂げている種類ならば、いつか生存のために火の利用を含む兵器を開発してもおかしくない……と。

 

 

 その他の話も軌道エレベーターや人間の想像力など共通キーワードを用いて、多様な宇宙世界を描いている。どのマンガも作中で必ず一定の解説的セリフが備わっているが、中には私の文系脳ではギリギリ理解が届かないものもある。だいぶかみ砕いてくれているはずなのに申し訳ない。

 

 

 実は連続して作者3作目も読んでいるため明日はそちらを取り上げる予定だ。

 

 兼業作家だという作者今後も創作活動を続けられるように本を買うのはとても大事なことなのだなと改めて思った。