72. 『ぬるめた』1~3巻 4人のJK(人造人間含む)が織りなすカオスコメディ
人が繁殖を伴わずに人を作り出す試みは古くから行われてきた。
カバラではゴーレム、中世後期の錬金術ではホムンクルスという人造生命の作成法が編み出された。残念ながら科学の発達によりその方法は否定されているが、一方で遺伝子工学、生命工学など各分野の進化で倫理的課題を無視できればクローン人間どころか0から人間を創るのも夢でなくなった。
とはいえSFのような人と機械の利点を混ぜた有機アンドロイドはさすがに未来のままだろう。当分はまだ想像力には追い付けないだろう。
こかむも先生の『ぬるめた』はハイテンションマンガだった。
以前取り上げた『クロシオカレント』と同じ作者なのだが、キャラクターの雰囲気は似通っているが内容は大きく異なる。
猫耳みたいな突起のある普通に変な人・しゆきと適当だが意外とまとも・さきな、そして口が悪い黒髪眼鏡・ちあきが作った金髪人造人間・くるみの高校生4人が駄弁ったり遊んだりふざけたり、(彼女たちにとっては)なんとことない日常を過ごす。
それぞれ倫理観が若干ぶっ飛んでる彼女たちの高校生活がまともな訳がない。それに大きな普通じゃない要素がまぎれている。くるみという人造人間=ヌルロイドが話の軸になっている。
ちあきがくるみに施すしょうもない・役に立たない改造を二人の前で披露するのが基本ストーリー。4コママンガだが正方形コマ以外に横長コマやN字順で読むパターンなど話の流れに合わせて調節されているのが面白い。
改造の具体的な内容は重油を飲めるようにする、お腹が鳴るようにする、指が万能ナイフになる、全身に充電器をぶっさせる、加湿器になる、頭が割れるなどなど。
改造者のちあきはくるみを溺愛しているがゆえに彼女が望んだ改造はすぐに実行する。改造したくなったらくるみも喜んで受け入れる。はたから見れば異常にも見える関係性だが、くるみは精神年齢が幼稚園児と変わらずちあきがなかなかの変態なので仕方ない。
まんがタイムきらら連載だが、調べたらそれ以前にpixiv、ニコニコ静画で自主連載していたものを加筆修正しつつ連載開始したらしい。ほんわか日常系枠ではなく『キルミーベイベー』の如きバイオレンスカオティックコメディ枠だ。
話が笑えるのは当然なので置いといて。
セリフに注目するとネット文化に影響を受けた現代的な会話といえる。たとえば「www」や「⁉」の多用、短く歯切れのいい相づち、ハイテンションなツッコミを表現するトゲトゲの吹き出しなど、会話劇ならではの作者のこだわりが見て取れる。
そして何よりも。やっぱりこの絵が好きだ。
ちびキャラな頭身、パステルでポップな色彩、柔らかさと硬さを併せ持った線描がどんな場面にもハマる。
似た雰囲気の画風を好きになりがちなのは自覚してる。けれど芯のある人が描く絵は必ず個性という魂が宿っているからオリジナリティがあふれ出る。尊敬する人物の真似から始めた創作活動がそのまま猿真似で終わるのか、作者のように一人のクリエイターとして羽ばたくかは本人次第なのだ。
……自分によく言い聞かせている。
日常とはかけ離れた奇天烈から生じる一度きりのJK生活。
彼女らは自由に喋って泣いて笑って遊んで生きる。
来世があるならこんなハチャメチャな青春を送りたいなと思ってしまう。