71. 『犬神博士』 高名な呪術師と邪悪な術師達の戦い
犬神とは呪術の一種だ。
一匹の犬を首まで地面に埋める。そしてギリギリ届かない位置に食事を置く。犬は飢えと渇きで必死に首を伸ばし続けてはそれらを満たせない苛立ちがやがて憎悪に変質する。数日間繰り返したのちに犬の首を刎ねると、その首は強力な呪物となり対象者を呪い殺すとされる。
漫画や小説などで度々登場する、実在したおぞましい術。
その名を冠する主人公の物語を読んでみた。
丸尾末広先生の『犬神博士』は呪術・霊能力をテーマにした作品だ。
犬神を使い敵討ちをたくらむ学生やお払いと称して弱者から金をむしり取る霊能力者らを依頼を請けて式神を操り討つ呪術師・犬神博士の呪いと戦いの話。
このブログで触れるのは初めてだが、作者の漫画は以前から複数読んでいた。本作を含め古い物も多いため単行本は必然的に中古になることが多い。綺麗な状態で読めるのなら文句はないが、そもそも市場に数も少ない印象なので見つけたらすぐ買う癖がついている。
話を戻そう。
作者の特徴といえば退廃的・耽美的・怪奇幻想的な作風だろう。本作のような呪術を始め、怪物や畸形、見世物小屋にサーカス、骸骨も裸体も同性愛も性行為もある。アングラとグロテスクを盛りに盛り込んだ漫画は唯一無二。
詩を取り入れたり特殊なコマ割りを用いたり実験的な表現にも果敢に挑戦する姿勢は敬意を表する。
私が丸尾作品を好きな理由もその独自性にある。仮に話が難解で理解できなくても、前衛的な表現に戸惑ったとしても、そんなことが些事に思えるほどの魔力が画面に籠っている。
白くしっとりとした画で描かれた苛烈なまでの題材に惹かれてしまう。おどろおどろしいからこそ魅力が生まれる。
周囲と違うものに人は目を向けてしまう。それはプラスかマイナスか感情の種類は人によるが、少なくとも私は何事においてもプラスだ。
こういった漫画の場合、いつも以上に語る内容が自分でもよくわからないくなりがちだし言語化して魅力を伝えるのが難しい。
ぜひ一度作品を手に取って読んでほしい。投げやりっぽいがそうではない……多分。
きっと刺激的な読書体験ができるはずだろう。