70. 『ハイスコアガール』1~10巻完結 ゲームを通して交錯する不器用男女の想い
高校時代、定期テストの最終日は解放感と時間的余裕もあって下校時にカラオケやゲームセンターへ行ったりしていた。
私はケチなこともあって友人のプレイを後ろから見ていることが多かったが、時には大してほしくない景品を求めてクレーンゲームに湯水のごとくお金をつぎ込み、友人たちと白熱したこともあった。
小学生の頃には母親の買い物でスーパーについていくたびに100円玉を貰って、『ムシキング』や『ドラゴンボール』『NARUTO』などのデータカード筐体の前に並んでいた。
青春を過ごした大人は多かれ少なかれゲームセンターの思い出があるのではないだろうか?
押切蓮介先生の『ハイスコアガール』にはゲームに彩られた郷愁が詰まっている。
本作は前々から知っていてずっと気になっていた一作。しかし著者のイメージは『ミスミソウ』と怪奇ホラーマンガだったのでゲームがテーマというのは意外だった。
物語は1991年から始まる。ゲーム狂いで他事はからっきしな小学6年生の矢口春雄は行きつけの下町らしいゲームセンターでいつものように『ストリートファイターⅡ』をプレイしていた。難なく連勝していく彼だったが次の対戦相手はまさかのクラスメイトの無口なお嬢様・大野だった。予想外の相手に面食らう矢口だったがさらに驚きなのは彼女が超玄人ゲーマーと同レベルの実力だったこと。
この日からお嬢様なのにゲーマーで暴力的で何を考えているかわからない大野と矢口のゲーム人生が始まった……
本作は登場するゲームが全て実在するのが大きな特徴だ。
前述の『ストⅡ』を始め、格ゲー全盛の90年代のゲーセンを代表する筐体ゲームが多数出てくる。また各ゲームキャラがそのまま使われ、たとえば主人公の持ちキャラ「ガイル」や大野の持ちキャラ「ザンギエフ」がそれぞれの心情に合わせた動き・セリフを代弁する。
格ゲーならではの技コマンドや隠しキャラの出し方、随所に散りばめられた細かくマニアックなゲーム情報はわかる人にはわかる通のネタだろう。
私は世代じゃない&ゲーマーではないので知らないゲームが多かったのは事実だが、それでも『餓狼伝説』『鉄拳』『魔界村』『源平討魔伝』などプレイ経験はなくともタイトルは知っているようなゲームが出てくると感嘆してしまう。
計10巻のストーリーの中で描かれるのは激動のゲーム進化と思春期の心情の変遷。
後半は恋愛要素も軸の一つとなり話に色を添える。ゲームが唯一の友だった主人公はヒロインとの出会いをきっかけに少しずつ、わずかに変化していく。小学生から中学、高校生へと時間をかけて、数々の障害とトラブルを乗り越えて結末に向かっていく。
がむしゃらに努力する主人公には感激の涙を、目まぐるしい終盤の展開には心がドギマギさせられた。ネタバレは避けるが最終話の演出もじっくり見たいほど、非常によかった。
本作は90年代を青春で過ごした人、特にゲーム好きの方に刺さる話なのは間違いない。しかしそれ以外の世代・趣味の方でもどこか懐かしさを誘うマンガだと思う。
それは時代特有の空気感まで描かれているからなのか、読者が自らの過去と重ねてしまうからなのかはわからない。
ただ一つだけ言えるのは
「ゲームは人を繋げる最高のツール」ということだ。