52. 『新装版 こあくまメレンゲ』 悪魔らしくないアクマの小さな侵略
この世にはいくつの漫画があるのだろう。
アメコミなど外国作品を除いたとして日本産のみでも何百万、同人誌やネット限定公開なんかも勘定すれば何千万、何億、途方もない数があるに違いない。
連載作だけに絞って考えよう。大半は単行本にして1~3巻程度の”打ち切り”作品で短い寿命を終える。悲しい運命だが自然界以上に過酷な弱肉強食の世界が漫画界だ。
今は人気作の作者でも過去にはそれなりに苦労している場合が99.9%なのだ。
ほっこり田舎ライフ漫画『のんのんびより』で知られるあっと先生の『こあくまメレンゲ』は1巻のみの作品だ。
地球征服を目論み地上へやってきた魔王の娘・ルーチェが女子高生に混ざって人の営みを知っていく4コマコメディ。
実は4コマなのは前半だけで後半は一般コマ割りに変化していた。個人的には後半部の方が読みやすくなっていたと思う。
『のんのんびより』の単行本に番外編(ルーチェは天使になっている)が収録されていたので作品自体は知っていた。改めて本作を読むと、まだ画力が安定しておらずボケの精度もイマイチだったりと作者がまだ発展途上だったとわかる。
しかし本作の要素は確実に次作以降に受け継がれている。ルーチェのプライドがある小柄でいじられキャラクターは『のんのんびより』の越谷小鞠によく似ているし宮内ひかげはパラレルだが同姓同名・見た目もそのままで両作品に登場している。
本作単行本収録の読み切り『とことこ』の2人は宮内一穂とひかげの原型と言える。
本作を描いた時には作者の作りたい物語の性格はある程度固まっていたのだと思った。読者が不快にならないようなオチ、下ネタはなし、恋愛要素はなくコメディ準拠な展開……
色んな人が読んで楽しめるお話作りは多くの創作者が求めるものであるが非常に難しい。主人公ルーチェは悪魔でありながら悪知恵も働かないし人を滅ぼすなんて到底できる器ではない。人間達と関わるうちに征服より大切な物を見つける――
ありがちだがほっとするオチ。予定調和が予定される理由はそこにある。奇抜だからオリジナリティ満載だからオールオッケーではないと知れる。
一冊マンガはいい。短時間で読めるし気負う必要もない。
休憩をはさんで次の漫画に手を伸ばす。