55. 『クロシオカレント』1巻 魔女も宇宙人もカツオが歩くのも高知なら当たり前
出身者にとっては日常でも観光客からすれば珍しい、その地方特有の文化は旅の醍醐味でもある。
一方で現地の生活者からしても当たり前に接していながら由来も理由もわからないまま馴染んでいる文化もあるかもしれない。
少しの違和感と不思議が混ざり合ったそれは心の普段触れない部分を刺激する。
こかむも先生の『クロシオカレント』は平和な日常系漫画の皮を被った異質異常系マンガだ。
高知県を舞台に繰り広げられる女子高生主人公とクラスメイトや家族の物語……なのだがなのだが、友人は触手持ちだし謎の財閥のお嬢様だし、父親は魔神に憑依されてるし四足カツオが道を歩き湖には強大な女の子が住んでいて魔女が街を裏で管理している、はたかれ見れば特殊極まりない場所だ。
主人公は周囲の状況に違和感を覚えていて指摘するのだが、「当たり前じゃん」「普通でしょ」と言われてしまう。それどころか変な人だと言われる始末。
唯一の普通人に見える主人公だが、一巻ラストでまさかの急展開。異常さ際立つ不穏な空気が漂い出して終わる。
まとめ方と引っ張り方が秀逸で全く先が読めない。
表紙の雰囲気から直感で購入したが、私の勘(自分にのみ有効)は案外正確で頼りになる。
この表紙だが、裏も含めてデザインが凝っていて小さな文字を読んでいると小一時間経ってしまうほど。こういうおまけや小ネタがある作品はお得感もあり別腹な面白さがあって好きだ。
前回の『空っぽの少女と虹のかけら』もそうだが、本作はまだ巻数が少なく面白いが超ヒットするほどは一般受けしない作品が大好物な私の琴線に触れまくりで嬉しい。
近年の大ヒット漫画と言えば、絶賛アニメ放送中の『チェンソーマン』や『SPY×FAMILY』『鬼滅の刃』などのジャンプ系を中心に『ミステリと言う勿れ』『チ。―地球の運動について―』『推しの子』『炎炎ノ消防隊』なんかも話題になった。
街の本屋が消えていき、電子書籍が浸透しても出版市場は縮小するばかりだが、マンガはまだ年代問わない娯楽としての可能性を残していると思う。毎年数百万~数千万部の大ヒット作が出ているのはそれだけ多くの才能が次々出てくることと支えるだけの読者がいるからだ。
そんな中、爆売れしてる作品は私が買わなくても十分すぎるほど成り立つ。ならば全く知らない作品を買って面白さを探す方がロマンがあり好奇心も満たされ作者に還元される好循環になると私は思っている。
正直逆張り的な心情がゼロと言えばウソになる。でもヒット作は後年になっても新品が発行され続けるし古本も多く出るが、それ以外の作品は売れなければ増刷されないどころか中古市場にも出てこない。気になっていたのに二度と手に入らない……なんて事態に陥ってしまう。
こんなことを言っているがヒット作全てを読んでないわけではない。『鬼滅』は映画も観たし『チ。』は読むたび心臓が疲弊した。もちろん過去のヒット漫画も多く手元にある。なんなら半分くらいはメディアミックスされた作品じゃないだろうか。
使えるお金と本棚と、その時の気分で何を買い何を読むかが変化する。一つ一つの選択が私という人間を形作ってきたと思うと妙に感慨深い。
今後どんな人間になれるかはまだわからない。