読んだら書くだけの存在

漫画や本を読んだ後の個人的感想の記録

54. 『空っぽの少女と虹のかけら』1巻 別世界に迷い込んだ何も持たない少女の未来は

 ”感情”はコミュニケーションの重要な道具の一つだ。

 

 人間は顔の筋肉、身振り手振りで相手に気持ちを伝えようとするし、その時の気分で自然に表情が変わってしまう。

 人以外の生物、特に哺乳類には表情は乏しくとも一定数の感情表現がある。たとえば「犬がしっぽを振る」や「象が死んだ仲間を弔う」などがそれに当たる。

 

 

 もし表情が、感情がなにもない人がいたとしたら生きていけるだろうか?

 

 

 

空っぽの少女と虹のかけら 1巻 (マッグガーデンコミックスBeat'sシリーズ)

 

 紀ノ目先生の『空っぽの少女と虹のかけらの主人公はタイトル通り何もなくなってしまった少女の物語だ。

 

 歩世子(ぽよこ)は幼くして両親を亡くした。親戚中をたらい回しにされ心身ともに虐げられてきた彼女はいつも外でも家でもひとりぼっち。ある日学校の遠足でクラスメイトと公園にやってきた彼女の名前を呼ぶ知らない少女と出会う。導かれるままに連れられて森の奥へ進むと景色が一変、絵本の中のような異世界に迷い込んでしまう。そこで彼女の運命を変える人物と出会う。

 

 表紙絵からしてただならぬ気配の漂う作品で、例にもれず表紙買いしてしまった。

 物語の舞台・異世界の森の描写はシュルレアリスム絵画レオ・レオ―ニの奇書『平行植物に登場する特殊な性質を持つ植物にも似ている。中折の作者あとがきには「オディロン・ルドンにハマってます」と書かれていたがそれもわかる。たしかに本能的恐怖を引き起こすノワールの版画は雰囲気に通じる点がある。

 単なる漫画というよりアート寄りな性質を持っているといってもいいかもしれない。

 

 ストーリーは不憫な少女が異世界で出会う存在により感情を取り戻す救済的物語――だけでなく主人公を助ける人物にはある目的が隠されていた、という一ひねりが加えられている

 世の中無条件で手を差し伸べてくれる人なんていないのだろうか。この先どうなるかはわからないが、読者は主人公に感情移入してしまうためまずは正当に救われてほしい思いが強くなってしまう。

 

 ともかく作品全体の雰囲気はとても好み一巻内のまとまりも非常によかった。先が気になる展開でなかなかのやり手と見た。

 

 他作品がほとんどないようだがまだ若い作者かもしれない。

 描き慣れてよりハイコントラストで濃密な背景描写になれば可愛いキャラとの対比がさらに効いてくると思うのでそこも楽しみだ。(勝手な願望だが……)

 

 

 2巻は来年半ばくらいか。

 1巻分の進みしか知らないままというのは何とももどかしい。