67. 『僕は妖しいキミのもの』1巻 魔性の幼馴染に迫られ誘われ求愛される
いきなりでアレだが、世界には数えきれないほど多くの性的嗜好がある。
全ての事物に愛好者がいると思うほど人間の感性は多様性に満ちている。他の生物を考えるといささか奇妙なことだ。
生物学の観点で繁殖だけを考慮すれば、人間の場合、雌雄の番が効率よく増えればそれでいいはずなのに実際はそう単純ではない。性別は大きな嗜好差があるが、それどころか他生物や無生物、架空物まで人は愛する。
子孫を残せなければ消えていく。他の生物ならそうだろう。
人間だけは違う。高い想像力と共感力であらゆる多様性を内包したまま進化を続けられる。これが繁栄の一つの秘密だと思う。
無駄に話を大きくしてしまったが、今回はラブコメマンガだ。
赤城あさひと先生の『僕は妖しいキミのもの』は今日発売の新巻だ。
常に真面目で「正しさ」を求める風紀委員の主人公には幼馴染の女子がいる。彼女は人間とサキュバスのハーフで主人公にゾッコン。彼女の誘惑を退ける主人公だが、彼の周りには他にも雪女の生徒会長や撫でられ好きの狼少女までいて……
本作は昨今の男性向けラブコメに多くなってきた異種族モノの一パターンといえる作品だ。
以前取り上げた『カナン様はあくまでチョロい』もヒロインは悪魔だった。それと似たようなもので、サキュバスは性質上ラブコメに用いりやすいためよく見かける。人の精を糧とし異性を誘惑して食べてしまう、まあ言ってしまえば都合のいい空想の亜人だ。
赤城先生は前作から知っていたので本作の連載が始まった時から単行本を楽しみにしていた。事前予約で当日に届いて早速読んだというわけだ。
読後の感想は今時らしいなと思った。
まず展開の速さ。一話の中でなるべく多くの見どころを作り出し初見の読者が飽きないよう素早く心を掴む工夫がある。いや当然他の漫画もそうなのだが、今時だと思った理由は冗長な言い回しや説明的なセリフを廃して最高効率でキャラの性格・関係性を理解させる作りをしている点だ。
本作で言えばサキュバスのハーフならではのヒロインの身体的・内面的魅力。それを理解しつつも「正しくない」と拒む主人公。お互いにどうして今の状況があるのかという話の筋を一度読めばわかるよう簡潔にまとめている。
映画や音楽を倍速やスキップしながら視聴する若者世代は漫画にも早さ・簡便さ・刺激を昔以上に求めている。ファスト文化と言っていいのか、時代の変化は勝手に起きていくものであり抗うすべはない。漫画も読者人口は多いものの1話目の盛り上がりが少なく展開も遅ければページをめくる指が途中で止まってしまうだろう。
娯楽的ラブコメである本作は深刻な題材を扱うわけではないだろうし、重苦しいストーリーでもない。だからこそ現代流の表現方法を使いやすいのかもしれない。
ここまで話してきたが、全て私の勝手な印象と持論なので適当に流してもらって構わない。
えっちで可愛いキャラが主人公男子を取り合う。古典的な構図をサキュバス・雪女・狼少女という異種族キャラで補い、かつ主人公とヒロインの関係性はもどかしいくらいゆっくり進んでいく。展開の早さはあれど決して雑に描かない。
仮に似た設定やキャラクターが登場しても、作者が描けば確固とした個性を持つ作品になるだろう。
また前作についても書くと思うが、とりあえず2巻が待ち遠しい。