62. 『惑星の影さすとき』 物理を解して光速で宇宙へと誘うハードSF
イーロン・マスク氏のニュースを見ていると宇宙旅行が一般に実現するのもそう遠くないと思えるが、仮に一般化しても旅費を考えると安易に旅先候補に加えるのは憚れらる。
ならば庶民は宇宙へ行くことはできないのか?
宇宙不平等が是正されないなら仕方ない。宇宙旅行に匹敵するほどの漫画を読もう。
八木ナガハル先生の『惑星の影さすとき』は小説に負けないハードSF作品集だ。
SFマンガを得意とする作者の第2作品集で、以前から気になっていたものの今回初めて読んだ。
一話完結話と連作があり、個人的にお気に入りはじゃんけんの話と無限登山の話だ。
前者は少女がじゃんけんトーナメントで999連勝するには何人必要かをテーマにした話。途方もないでは済まない、天文学的数値を越えるほどの人数が居なければ成立しないという。その数も計算と数字で表せるとは、数学の凄さだろう。
後者は無限をテーマに二人の少女が大気圏外まで伸びる山を登る話。無限にかかわる問いはもはや哲学的問答に等しく感じられた。机上の空論なのだが理論上正しい。実現はできないが確かに筋が通った物理数学話は創作活動すべてに通じるものを持っていると思った。
連作の方は1人のフリージャーナリストを主人公にしてより広範なSF要素を散りばめた興味深い話だ。時空間移動や特異点、惑星植民や暗躍する謎組織、多様な宇宙人達。専門的なワードも多く登場するが決して読みにくくない。閑話休題にちょっとしたワード解説があり、作中セリフに使われる実在作品には脚注がつけられているなど読者配慮もなされている。
SF、特にハードだとコアなファン以外が手に取らない倦厭されがちなジャンルなのは間違いない。事実私もあまりその類の小説は読まない。やはり難解なイメージが先行して活字のみだと私の矮小な脳みそでは読み解きに膨大な時間を要してしまうからだ。
ではマンガなら?
画という視覚情報が増えれば小説と比べて圧倒的に理解しやすい。
……まぁそれでも概念的な難しさは変わらないのだが。
作者の商業作品は現在本作含め4冊出ているようだ。次は一作目を手に取りたいと思う。
無限大の想像力の世界がそこにはある。