3. 『江戸川乱歩異人館』6~11巻 幻想怪奇の犯罪人共
前回“辛い悲しい物語を再読することは滅多にない”的なことを書いたが、気に入ったものやギャグ・コメディ系の漫画は何度も繰り返し読む。
昔は長編バトル漫画を第一話から何度も何度も読み返していたが、そんな読書体力はなくなってしまった。けれど、
「あ、なんかアレ読みたいな」
ふと思い立って本棚から取ってくることがある。
今回の漫画が中途半端な巻数からなのはそのためである。
かつてビジネス・グランドジャンプ等で連載されていた山口譲司先生の漫画で全13巻。タイトルに「江戸川乱歩」とある通り、原作を怪奇・探偵小説家の江戸川乱歩の作品に拠っている。ただし1から100まで原作に忠実ではなく、細部に漫画オリジナルの展開や追加キャラがいたりする。
たとえば江戸川乱歩という名の探偵小説家が作中に登場し明智と共に『D坂の殺人事件』に挑むなど。江戸川乱歩はその後も幾度となく語り手として登場する。また青年誌ならではの過激な描写もやりすぎない程度に盛り込まれている。
しかし原作の完成度や面白さを破壊せず、あくまで原作ありきで漫画を描くことの責任は保っている。小説という文章で読者の想像を掻き立てるものから画という視覚的要素を追加して読者に訴える。著者は乱歩作品の古典的かつ独特な雰囲気と人間のおどろおどろしさを完全に表現していると思う。
各話は主に光文社版の全集から中短編の乱歩作品を元にしているため1話完結がほとんど。つまり何巻から読んでも基本的に問題はない(巻を跨いだり10話を超える話もある)。
以下Wiki参考
話の題名は全て「〇男」か「〇女」で統一されている。1巻収録の原作『人間椅子』なら「座男」という仕組みだ。
今回読んだ関数の中でお気に入りは7巻収録の原作『指』の「蠢男」、8,9巻収録の原作『吸血鬼』の「蛭男」、10,11巻収録の原作『石榴』の「虐男」など。お気に入りに挙げておいて言うことじゃないが、これらの原作は未読である。なので漫画との差異は判らないが、いずれもよくできているうえ描写もいい。著者の画風作風はエログロの乱歩作品の色にぴったりだ。
私一人の想像力では限界のある乱歩の世界の理解を助けてくれる存在でもある。原作を既読なら
「視覚化するとこうなるのか」 「ラストはこっちでもいいかも」となるし、
未読なら
「ここのトリックさすがだな」 「明智カッコいい、ヒロイン綺麗」となる。
残念ながら乱歩の代表作の一つ『少年探偵団』シリーズは一話も収録されておらず、小林少年が明智の助手として登場する以外には怪人二十面相が一度だけ、それもメインではなく登場するのみとなっている。勝手な推測だが、青年誌連載かつ著者の作風からして『少年探偵団』シリーズはコンセプトとズレるからだと思われる。
いつか二十面相対小林少年を山口先生の画で読んでみたい。