読んだら書くだけの存在

漫画や本を読んだ後の個人的感想の記録

2. 『SUBURBAN HELL 郊外地獄』 現代社会に蔓延る鬱屈した想念

「ホラー漫画が好きです」

 

 というと周りから少し「え?」という顔をされたりする。

 

 気持ちはわかる。ホラー嫌いの人からすれば自ら恐怖を求めるなんてどうかしてる。

 

 

 恐怖の感情は人間に備わった太古に獲得した本能の一つ。その多くが失われた中で残ったということは生存のため必要なものだったわけだ。

 

 けど世の中そうそう外的存在によって生死を脅かされることはない。恐怖の感情は外敵に反応する代わりに刺激的な娯楽に用いられるようになった。お化け屋敷にドッキリ企画、ホラー映画も全て退屈な現世で得られない刺激を得るため……。

 

 

 ホラーによる恐怖はそうした根源的な娯楽の一つだと思う。笑いよりも古い人々の楽しみ。広義には古代ローマコロッセオで民衆が熱狂した剣闘士と猛獣の見世物に代表される人間の醜い欲望にも通ずる。幽霊・怪物・殺人鬼・サイコ・妖怪・都市伝説・エログロなどなど、創作物だからこそ心置きなく?楽しめるものがあるのだ。

 

 

SUBURBAN HELL 郊外地獄 (リイドカフェコミックス)

 

 

 ネットで本を買うことが増え、書店にはあまり置いてないような少部数書籍を手に取ることも増えた。漫画は娯楽の中でも人気コンテンツとはいえ、昨今の電子書籍の波や未だは根絶されない違法サイトのせいで街の本屋は消えつつある。

 

 私は根っからの紙派だが、環境への配慮や単純な置き場所問題もありそろそろ一部電子に移行しようかと悩んでいる。それでもなお実物、紙に魅力を感じる。ただ実店舗で買う機会は大幅に減った。やはりネットで楽に買えてしまうのは手軽さ便利さと引き換えに大きな産業を潰してしまうのかもしれない……

 

 

 この漫画もネットで買ったものだ。

 商品ページの下部や横に出る「この漫画を読んでる人におすすめ」的な関連漫画の中で気になっていたものだ。このオススメ欄はなかなか馬鹿にできない。ちゃんと面白い漫画を紹介してくれる。

 

 

 まず表紙の圧力が凄い。

 濃密なモノクロの画で一目でただならぬ内容だとわかる。

 

 タイトルに『郊外地獄』とある通り、郊外に暮らす人々に降りかかる又は招いてしまう災厄を描いた短編集になっている。

 

 災厄は人的恐怖がメイン。個室ビデオで観たVRの謎のAVや援交で憂さ晴らしする冴えない男の話などやや扱いずらい物事を主題に話が展開していく。『闇金ウシジマくん』を彷彿とさせる、個人的に嫌いだけど好きなジャンルだ。

 

 そういった暗い重たい漫画はいくつも手元にある。いずれも2回目を読むことはまずない。精神的にしんどいのが理由だ。初見なら次のページ、次の巻にどんな展開やキャラが待ち受けているか知らないから読んでいける。もう一度開けば酷烈な展開を再び体験しなければならない。

 

 けれどこれは私なりの誉め言葉なのだ。辛く悲しく重量感を持った話は容易に描けるものではない。画面の皮だけ取り繕っても、それはグロテスクでショッキングでスプラッタ―な海外C級ホラー映画と変わらない、チープな作品止まりになってしまう。

 

 この作品はそのハードルを越えている。作者の金風呂タロウ先生の他作品はあいにく未読なので断言はできないが、素晴らしいホラー漫画家の一人だと思った。

 

 

 

 いろいろ言ってきたが、とにかくホラー漫画は素晴らしい。

 これからもたくさん読みたい。