読んだら書くだけの存在

漫画や本を読んだ後の個人的感想の記録

84. 『まちカドまぞく』1~6巻 優しき心で皆を救う魔族の少女の成長譚

 陰と陽、光と闇、善と悪、聖と邪……

 

 相反する物の組み合わせ。二体一対は相殺しあうことで平衡を保っている。

 

 どちらか一方が強大でも脆弱でも成り立たない、曖昧で不安定な関係性はゆらゆら揺れて行ったり来たりしながら、けれど確かに硬く頑丈な絆となっていく。

 

 

 今日のマンガはそんな物語。

 

 

まちカドまぞく 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

 

 伊藤いづも先生の『まちカドまぞく』2度アニメ化された人気作だ。

 

 ある朝突然、角としっぽが生え闇の力に目覚めた吉田優子は、一族の力を封印し「一か月3人4万円生活」の呪いを解くため宿敵・魔法少女の打倒のため街に繰り出した。だが街角で轢かれそうになった時、トラックを片手で止める桃色の魔法少女に助けられる。

 あまりに強いその力に怯えきる優子だったが、登校後、友人に詳細を話すとその魔法少女千代田桃が隣のクラスにいると判明。早速戦いを申し込みに行くが……?

 

 

 まんがタイムきららの中でもあまりない現代ファンタジー

 魔法と魔族、光と闇の両一族などをキーワードに、

 

 愛らしく個性豊かなキャラクター達が注目されがちな”きらら系”において、巧妙な伏線と奥深いストーリー性が(私に)評価されている。

 

 主人公は魔族の血を引く変わった境遇の少女。当初は倒す敵だった魔法少女と毎日のように交流しているうちに関係性も変遷を辿り、ライバルで仲間で友人となっていく。

 過去に大きな秘密を抱える魔法少女の桃にとって、か弱いはずなのに努力とお節介と優しさを振りまく主人公の存在は「危なっかしくて放っておけない子」から「自らを犠牲にしても守るべき親友」となる。

 

 アニメでも描かれた1巻から4巻の一部までは、物語の核心が時折顔を覗かせる程度で基本ほんわかファンタジーコメディといった流れだった。世界観と完全合致した作者の卓越した言葉センスは語感のよいセリフとなって、キャラの個性と相乗効果で魅力度を上げている。

 そして未アニメ化の4巻後半から最新6巻。特に5巻以降は、とある人物の秘密が明らかになり、さらに桃とその姉で街を守っていた先代の魔法少女桜の出会い、そして桃の過去の転換点が明らかになる。

 

 わちゃわちゃしつつ、たまに軽めのシリアスを挟むアニメから入った私は6巻の”ある1コマ”を見た時、思わずゾッとしてしまった

 

 この時私は確信した。

 

「このマンガ、とんでもない猫を被っていた」

 

と。

 

 作者を過小評価していたことを反省した。続きが気になって仕方ない。

 

 単なる可愛い女子の可愛い会話をぼんやり眺めるような、平和ボケした作品じゃない。

 他者との共存、己の主張をどこまで通していいのか、他者への思いやりの必要性など重大な社会問題に通ずる裏テーマがあちこち差し込まれている。設定から展開の順序まで、事前にかなり作り込まれていたのだろう。話の破綻がどこにもない。綿密な計画性に支えられた完成度の高い作品だ。

 

 

 惜しむらくは改善しようのない刊行スピード。年1冊は単行本派にはつらい速度。

 

 

 未知の7巻に期待と不安を抱きながらアニメをヘビロテしている。