読んだら書くだけの存在

漫画や本を読んだ後の個人的感想の記録

12.『悪い夢のそのさき...』 優しい筆致で描かれる闇の世界

 私がホラーの話を書く時、やはり恐怖までの到達時間を短くしたいと思ってつい1000字程度の短編ばかりを書いてしまう。

 

 しっかりと登場人物を深堀りしストーリーに伏線と謎を散りばめてオチであっと言わせる……そんな長編ホラーが王道だ。

 しかしホラーはいかに読者に恐怖や不安を感じさせるかこそ重要だと思う。長々と文章が続かなくても情景が分かり読者が語り手になれればちゃんと怖い。

 

 この短編集はまさにそんな内容である。

 

悪い夢のそのさき… (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

 本作は当然だが私の拙い想像が生み出す怪談モドキとは比べるまでもなく、作者のうぐいす祥子先生の空想力の高さがうかがい知れる。

 

 うぐいす先生の作品を読むのは本作が初めてではない。

『フロイトシュテインの双子』ひよどり祥子名義の『死人の声をきくがよい』を過去に読んでいる。

 どちらも面白かったので、そのうち記事を書くと思う。

 

 私の感じる作者の特徴は柔らかい線描のスプラッタ―である。

 

 可愛らしいキャラが残酷に死ぬ話は割と多い。起承転結に四苦八苦した痕跡を感じる話もあるが、奇抜な発想で単なる心霊ホラーだけでなくSFチックであったり不可思議な話だったりと様々な話に挑戦している。

 いずれも興味深く楽しめるいい話だ。

 

『悪い夢のそのさき...』では表紙で扉を開ける謎の怪物が登場する話が、

「えぇえ!?」となる意外な展開で意表を突かれた。3話くらいの連続短編で読んでみたい。

 

 先が続きが気になる話が多いのも特徴かもしれない。一話完結の短編だともったいない、もう1話、もう2,3話読みたいと思わせる話を一話完結にすることは悪いことではなく、むしろ1ネタ1ネタを惜しみなく消費して話を紡ぐ姿勢は素晴らしいことに思える。

 いくつも題材やオチを考えるのは苦しい作業だと思うが、その繰り返しで磨かれたものがやがて傑作になる。さらに面白い話がどんどん描かれていくだろう。

 

 

 先生の作品は今後も読んでいきたい。