59. 『雨宮さん』1巻特装版 あふれる"好き"を語ればきっとみんな幸せ
あけましておめでとうございます。
一応の挨拶だけ済ませまして、今年一発目の漫画を。
実は年明けから大量に漫画を買ってしまい、ぎゅっとまとめて読み終えている途中なのだ。
せっかくなのでその中から特別な一冊について書こうと思う。
あらゐけいいち先生の『雨宮さん』の特捜版を購入した。
あらゐ先生と言えば『日常』が有名だろう。実は先月『日常』の最新作が数年ぶりに発売された。しかし私はそんなことも露知らず、年末にたまたまTwitterで知って衝撃を受けた。
そして同時発売されていたのが本作だった。年明けに両方同時に手に入れた。
雨宮さんは普通の高校生の女の子――のように見えるが実は周りに隠していることがある。それは「なんか好き」なものがいっぱいあること。たとえばトルグスイッチをパチンとすること、バスのスイッチを押すこと、賞状を入れる筒の蓋をポンッとすること……
五感を刺激する心地よさ、言葉で説明できないこの”好き”の感覚をかつては全員共通の当たり前のこととして友達やクラスメイトにも話していたが、まったく理解されないどころか変な子だと思われてしまう。それ以来好きを隠してきた雨宮さんは田舎の高校に転校する。少人数のクラスには変わった生徒しかいなかった……!?
現実をベースにしているがどこか夢の中のような空気感がある。特装版は装丁が布地のハードカバーで中身がフルカラーという豪華仕様。色彩があるのとないのではまるで印象が変わる。特にその影響が強そうな作品に思える。
主人公は趣味こそ変わっているがとても心優しく、恥ずかしがり屋で自由気ままであり、他人を思い遣れる人だ。
起承転結が明確だったりオチが意外性の塊だったり斬新で奇抜でエンタメ要素盛りだくさんな今時大人気マンガとはまるで違う。周りに流されず自らに従い進む時間がそこにある。
話を構成するその全てが優しい世界だった。作者が大切に思っていること、好きなこと、日常の中にある僅かな取っ掛かりを詰め込んで作られた話が素晴らしくないわけがない。
私が読む漫画の一部には本作と似たような読後感のものがある。たいして疲れてもいないのについつい癒しを求めてしまう。辛く苦しい話も時に読みたいが、そればかり摂取していては現実とに挟まれて心が消えてしまうのではと、大げさにも思ってしまう。
自らを鼓舞する意味でも支えにする意味でも、こういった作品にめいっぱい触れていられるのは幸せなことだろう。
ありがたく思って今年も多くの物語を読んでいきたい。