86. 『めんや』 反骨と相違満ちる若手の仮面職人譚
夏の風物詩の一つ。
日暮れの頃から路上や境内に立ち並びぶ屋台。人通りが増えて祭囃子を合図に、にわかに活気づいていく。
食べ物に金魚すくいと射的、そして大人気ヒーロー・ヒロインのお面。
面は人類が神に成るため、動物に成るため、他者に成るため生み出した変身の道具。
呪術的な意味合いでの使用は民族儀式や祭儀で今も世界中に存在している。
柴田康平先生の『めんや』は一風変わった仮面職人の物語だ。
被るとそれに応じた能力を使える仮面。それを作る職人少女は山間にある師匠の工房に住み込みで働きながら、奥地の温泉へ行ったり動物と会話したり師匠に歯向かいながらも成長への気づきを得て、一歩ずつ前進していく。
作者の漫画紹介はこれで3作目。
単行本の時系列的には『レキヨミ』の後になる。
前作と同様の表紙には主人公と作中に出てくる仮面たち、そして山の仲間の動物達がいる。
その他登場人物は主人公の師匠とその同業者くらい。キャラは少ない。
主人公が女性というのは作者の作品に共通する特徴。
師匠たちは自作の動物の仮面を常につけているため素顔は見えない。『レキヨミ』にも鳥顔の大型のロボを中から操るという似たキャラが出てくる。
動物の毛並みのフワフワ感、自然豊かな背景描写は真に迫っている。さすがの画力で魅せてくれるが、本作の魅力は何といっても仮面だろう。
動物と話せる仮面・精霊と意思疎通できるようになる仮面・嗅覚を強くする仮面・怪力になる仮面……etc.
能力バトルで一人一つの力を仮面さえ付け替えれば一人で何種類も扱える。チートと言ってもいいが、あくまで彼女は自分のために使うのみ。
そして能力以外にも本格的な仮面製作の過程が描かれている。
デザインを決めたら、材木からどこを使うか線を引き面取りからの荒削り。形をとったら鑿を持ち換えて少し細かく、また鑿を変えてより細かく彫っていく。ほぼ形が出来上がったら細部を。彫りあがれば彩色――といった作業工程が詳細に描かれる。
作者が執筆に当たり調べたかもしれないが、私としては彫刻経験者なのではと思った。それほどまでに工程描写が知識のない読者も納得させるものだった。
一冊まるごと「めんや」の本作は一巻のみ。
ぜひいつか続きを読んでみたい。