42. 『黄色い悪夢』 人の内面に迫る奇妙奇抜ホラー
悪夢を見た経験はあるだろうか?
うなされ叫びながら起床する、よくあるシチュエーションを実体験した人は少ないだろうが、悪夢のような現実に遭遇した人は案外多そうに思える。
いつ何があるかわからない日常で、周囲の人との軋轢が大事件に発展するパターンはワイドショーで頻繁に取り上げられる。
悪夢は寝て見るものではなく起きて会うものなのかもしれない。
二回目の登場、黄島点心先生による奇想ホラー集の第一作『黄色い悪夢』
以前書いた『黄色い円盤』と比べてホラー色の強い話が多かった印象だ。
特に記憶に残ったのは女性を圧縮袋に入れて真空状態にする性癖を持つ男が恋人を殺害することから始まる悪夢のような一連を描いた話。
健全な一般諸君は知る由もないが、圧縮フェチとでもいう性癖は実際に存在する、らしい。ちなみに検索はお勧めしない。私もネットの海の中でちらっと見聞きした程度なので詳細は不明だが、世の中には物の数だけ人の趣味がある。作中の男のように他人に危害を加えなければ(当然法も犯さなければ)どんな趣味でも問題ないと私は思う。
だがこれをネタに使ってホラーを描いた作者はやはり非凡な存在に違いない。
他にも『ブラックジャック』等で有名な”人面瘡”をもじった、人の顔を剥いで海に流す風習があった町の話”人面葬”も人間関係の醜さと問題点を的確についていて、風習の不気味さと相まり読後に妙な興奮があった。
大戦中の東南アジアで死の苦しみと出兵前の恋と後悔に苛まれる男と蚊の運命を描いた驚きの設定が興味深い話など、本作もバリエーションに富んだ内容となっていた。
荒削りでありながらも類を見ない発想を形にして作品化する力量はさすがとしか言いようがない。
作者のような個性をぶん回して道を突き進むような作家がもっと増えて欲しいと思った。